映像の原点でもある「影」は、昔から実在することの証であった。けれども、影そのものはモニターに映し出されたイメージと同じように、実体ではない。
作品に触れると、その影は、動き出したり、形を変えたり、ときには色づいたりもする。鑑賞者は、映像で作られた影と自分自身の本物の影が同じ平面上に投影されたとき、自分の影と存在を再認識するのである。
1997年に制作した《KAGE》という作品は、幸いなことに、この約20年間、国内外の様々な展覧会で展示する機会を得た。その間に、プロジェクターの解像度が高くなり、センサーの感度も良くなり、なによりコンピュータの処理速度が格段にアップした。展覧会場に合わせて小型化したり、テーブルタイプ、壁かけタイプ、床壁3 面投影タイプなど、さまざまなバリエーションも制作した。今回は、かねてからの念願だった大型化に挑んでいる。
メディア技術を組み込んだ作品の性なのか、展示する度にアップデートを繰り返してきた作品ではあるが、最初につくったときから変えていない部分も、もちろんある。それが、メディアアートを「芸術」として機能させる要素だと信じて。(2016)